【未払賃金債権放棄】にはサインしない!

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退職手続きに必要な書類だからと言われてサイン(署名・押印)した。あとで気づいたら未払賃金債権放棄誓約書だった!
これは週末にzoomで参加した解雇事例の研究会で報告された実際にあった話です。

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退職手続きに必要な書類だからと言われてサイン(署名・押印)するように言われても、その場でサインしない

会社を辞めるときに、会社からいろんな書類を出されて言われるままに次々と書類にサイン(署名・押印)した。

うっかりしていると、何枚もある書類の中に、未払い債権放棄の誓約書を紛れ込まされて、気が付かずにサインさせられることがあります。

“○○の退職条件の他には会社と労働者の間には一切の債権債務がない”のような包括的清算条項が含まれた合意書にサイン(署名・押印)させられるなどです。

未払いの残業代が過去2年分で100万円、有給休暇未取得が30日分ありました。

会社から有給未消化分を特別に買い取って退職時に支給してあげるからこの文書にサインしなさいと言われた。

未取得の有給休暇1日あたり1万円で30日分で30万円だったとします。

就業規則の規定による退職金○○万円と特別に支給する30万円の他に会社と労働者の間には一切の債権債務関係がないと書かれた合意書にサイン(署名・押印)を求められたとします。

誓約書、同意書。

サインしたらもう終わり、とは限りませんが、会社のペースで言われるままに次々と書類にサインするのはいけません。

どうしたらいいでしょう?

まずは、“書類を読んでからサインしますので今日は持ち帰り検討します”というのはどうでしょうか。

それでも強引にサインを迫ってきたら、どうしましょうか?

“トイレに行きたい”と言ってその場を先ずは離れる手をオススメする人もいます。

とにかく、その場から逃げましょう。

わからない書類に名前とハンコだけついてくれと言われても、その場でサインしないことが一番です。

あのときサインさえしなければ、面倒なことにならないで簡単に支払ってもらえたのに、サインしてしまったので支払わせるのに大変な苦労をしたということは避けましょう。

もしも、わからずに未払賃金債権放棄の同意書にサインしてしまったという方。

サインしてしまったからもう諦めるしかない・・・わけではありません。

労働基準法に賃金全額払の原則があるからです。

【未払賃金債権放棄】誓約書・同意書にサインしても、あとから請求できないとは限らないが、サインしない

【全額払の原則】労働基準法賃金支払の5原則の1つ

会社は労働者に賃金を全額支払わなければ違法です。

たとえば、就職するときの採用面接で“この会社では残業代は払わないことになっているけれどそれでも働くかい?”と言われたとします。

他に就職するあてもないので残業代が払われなくても働けるだけいいやと思って、“残業代なしで構わないから働きます”と言って合意したとします。

合意によって成立した労働契約ですが、合意があればどんな労働契約でも認められることになれば、労働基準法が定めた最低限の労働基準は意味がないものになってしまいます。

労働基準法で定める労働条件の最低基準に達しない労働条件の部分についての労働契約は無効となり、労働基準法で定める労働基準が労働契約の内容となります。

残業代はいらない、賃金の一部は払われなくてもよいなどと賃金請求権を放棄することに労働者が合意したから払わない会社は労働基準法違反で許されません。

労働基準法1条(労働条件の原則)

労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。

2項 この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。

労働基準法13条(この法律違反の契約)

この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。

この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。

労働基準法24条(賃金の支払)

賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。

ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

2項 賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。

ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第89条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。

【賃金債権放棄の意思表示】労働者の自由な意思に基づくことが明確でなければ賃金全額払の原則に反し認められない

労働基準法の賃金全額払の原則によって、会社は労働者が賃金債権放棄したから未払賃金を払わないと主張することはできません。

労働者の賃金債権放棄が認められるのは特別な例外の場合だけです。

労働者の賃金債権放棄が認められるのは、労働者の自由な意思に基づくものであると認められる合理的な理由が客観的に存在していたといえる場合だけです。

退職金債権を放棄する旨の意思表示が有効と認められるかどうかが争われた裁判にシンガー・ソーイング・メシーン事件があります。

退職金債権を放棄する旨の意思表示が有効と認められるのは、労働者の自由な意思に基づくものであると認められる合理的な理由が客観的に存在していたといえる場合であると、極めて限られた場合に認められることを示しています。

最高裁判決を抜粋して、読みやすくするために一部を書き直して表にまとめました。

具体的にどういう事情の労働者がどうして賃金請求権を放棄する書類にサインしたのか状況を見てください。

賃金債権放棄するという文書に労働者がサインしたんだから、会社は未払賃金を払わなくていいという内容では全くありません。

労働基準法の賃金全額払の原則は大原則として否定することはできないのです。

シンガー・ソーイング・メシーン事件 昭和44(オ)1073  退職金請求 昭和48年1月19日  最高裁判所第二小法廷  判決から引用(一部の表現を変更しています)
退職金債権を放棄する旨の意思表示が有効と認められるのは、労働者の自由な意思に基づくものであると認められる合理的な理由が客観的に存在していたといえる場合である。
労働基準法の賃金全額払の原則の趣旨は、使用者が一方的に賃金を控除することを禁止しすることによって、労働者に賃金の全額を確実に受け取らせて、労働者の経済生活をおびやかすことのないようにしてその保護をはかろうとするものである。
この事件での労働者が退職の際に自分から賃金である退職金債権を放棄する旨の意思表示をした場合に、労働基準法の全額払の原則がこの意思表示の効力を否定する趣旨のものであるとまで解することはできない。
もつとも、右全額払の原則の趣旨とするところなどを考えると、この意思表示の効力を肯定するには、それがこの事件での労働者の自由な意思に基づくものであることが明確でなければならない。
退職前にこの労働者は会社の西日本における総責任者の地位にあった。
しかも、会社は、この労働者が退職後直ちに会社の一部門と競争関係にある他の会社に就職することが判明している。
さらに、会社は、在職中にこの労働者とその部下の旅費等経費の使用につき書面上つじつまの合わない点から幾多の疑惑をいだいていたので、右疑惑にかかる損害の一部を填補する趣旨で、会社がこの労働者に対して書面に署名を求めたところ、これに応じて、この労働者が書面に署名した。
これらのことから、この労働者の意思表示が自由な意思に基づくものであると認めるに足る合理的な理由が客観的に存在していたということができるので、退職金債権を放棄する旨の意思表示が有効である。

判決文は裁判所の裁判例情報から事件番号昭和44(オ)1073で検索して読むことができます。

【未払い賃金債権放棄】退職時に限らず、働き続けるときにもサインしない

未払いの残業代(時間外労働手当)を支払うように労働基準監督から会社が是正勧告を受けた。

時効消滅していない過去2年分(今年2020年4月1日以降に支払われる賃金については過去3年分)の未払賃金を支払わなければならないところ、たとえば未払賃金のうち3ヶ月分だけ会社から受け取ることと、この受け取る金額の他には会社と労働者との間に債権債務はないとする文書にサイン(署名・押印)させるということがあります。

“他の人はみんなサインしたよ”と言われても、その場でサインするのはやめましょう。

持ち帰り検討して、わからない場合は労働問題の専門家に相談してから判断しましょう。

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【編集後記】

退職手続きに必要な書類だからと言われてサイン(署名・押印)した。あとで気づいたら未払賃金債権放棄誓約書だった!というのは、週末に開催された解雇事例の研究会で報告された実際にあった話です。
他にも、出産間近に大きなお腹で邪魔だから帰れと言われ産前産後休暇を申請したら解雇されたなど酷い話が次々とありました。
もちろん許されるものではありません。違法です。
『知は力なり』です。労働法の入門編・パンフレット程度の知識があれば十分ですので学びましょう。
そして、何かトラブルにまきこまれたときには、裁判に訴える、労働審判を利用する、労働組合で団体交渉する、労働局(長)による助言・指導の申し出をする、労働委員会や労働局によるあっせんを申請する。
労働法の知識を得るためにほんの少し学ぶことといざというときに自分らしい方法を選んで解決をめざして行動する。
少しの知識と小さくても行動で、自分の生活と仕事を大切にしていきたいですね。

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小倉健二(労働者のための社労士・労働者側の社労士)Office新宿(東京都)

小倉健二(おぐらけんじ) 労働者のための社労士・労働者側の社労士 労働相談、労働局・労働委員会でのあっせん代理 労災保険給付・障害年金の相談、請求代理 <直接お会いしての相談は現在受付中止> ・mail・zoomオンライン対面での相談をお受けしています。 ・30分無料zoomオンライン相談(期間限定)「相談・依頼の申込み」フォームから受付中。 1965年生まれ54歳。連れ合い(妻)と子ども2人。 労働者の立場で労働問題に関わって30年。 2005年(平成17年)12月から社会保険労務士(社労士)として活動開始。 2007年(平成19年)4月1日特定社会保険労務士付記。 2011年(平成24年)1月30日行政書士試験合格
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