労働者からの労災での相談で「労災保険を使わずに健康保険で治療してくれ」と会社にいわれたという話を聞きます。
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「労災保険をつかうと保険料が上がるから健康保険をつかってくれ」と会社に言われた
「ケガと弁当は自分持ち」仕事のケガは自己責任などと言い放つ職場(現場)もかつてはありました。
さすがにこんなことをいう職場は今はないでしょうが、「労災保険をつかうと保険料が上がるから健康保険をつかってくれ」と会社に言われたという話は聞きます。
「労災保険をつかうと保険料が上がる」から労災保険は使わせない。とんでもない話ですし、違法です。
労災によるケガや病気では健康保険を使うことは違法ですし、労災保険で本人負担無料で診療をうけることができます。
「労災保険をつかうと保険料が上がる」は本当か?
「労災保険をつかうと保険料が上がるから健康保険をつかってくれ」の「労災保険をつかうと保険料が上がる」は本当でしょうか?
たしかに、一定規模以上の事業で一定の条件を満たした事業では、その事業での労災発生の多い少ないによって労災保険の保険料が+ー40%(例外として+ー35%、+ー30%)変動します。
労災保険のメリット制とよばれる仕組みです。
たしかに、「労災かくし」が起きることの大きな原因の1つに、このメリット制があることが指摘されています。(私も労災保険料のメリット制に賛成しません。)
しかし、そもそも一定規模以上の事業でなければ、「労災保険を使う」(労災申請して労災保険給付をうける)ことで労災保険料は上がりません。
そして、一定規模の事業であれば労災が発生したことで保険料があがるのは仕方ないともいえます。
労災保険料が高くなるから労災保険をつかわずに健康保険を使ってくれなど言語道断です。
労災保険をつかうことで労災保険料があがるのは、一定規模以上の事業だけ
労災保険のメリット制が適用されるのは一定の条件をみたす事業だけです。
継続事業(一括有期事業を含む)で労災保険料のメリット制が適用される場合
連続する3保険年度中の各保険年度において、次の(1)~(3)の要件のいずれかを満たしている事業であって、当該連続する3保険年度中の最後の保険年度に属する3月31日(以下「基準となる3月31日」という。)現在において、労災保険に係る保険関係が成立した後3年以上経過している事業についてメリット制の適用があります。
1 | 常時100人以上の労働者を使用する事業 |
2 | 常時20人以上100人未満の労働者を使用する事業であって、 その使用労働者数に、事業の種類ごとに定められている労災保険率から非業務災害率(通災及び二次健診給付に係る率:0.9厘)を減じた率を乗じて得た数が0.4以上であるもの |
3 | 一括有期事業における建設の事業及び立木の伐採の事業であって、 確定保険料の額が40万円以上であるもの |
有期事業で労災保険料のメリット制が適用される場合
単独有期事業では、事業終了(建設工事などの終了)後、いったん確定精算した労災保険料の額が、メリット制により増減します。
1)または2)の条件をみたす事業がメリット制の対象となります。
1 | 建設の事業であって、 確定保険料の額が40万円以上又は請負金額が1億1,000万円以上のもの |
2 | 立木の伐採の事業であって、 確定保険料の額が40万円以上又は素材生産量が1,000立方メートル以上のもの〕 |
労災保険のメリット制について 厚生労働省
「労災かくし」は違法。「労災保険をつかうと保険料が上がるから健康保険を使」うのも違法。
「労災保険をつかうと保険料が上がるから健康保険をつかってくれ」と言われた。
労災保険の保険料を安くするため、労働基準監督署からの事情聴取や現場検証をさけるため、などの理由で会社から「労災保険をつかわずに健康保険を使って治療をしてくれ」と言われることがあります。
しかし、そもそも労働災害が発生した場合には、所轄(事業場を管轄する)労働基準監督署に報告する法令上の義務があります。
「労働者死傷病報告の提出はお済みですか?」厚生労働省・宮城労働局
死亡または休業4日以上の労働災害が発生した場合は遅滞なく報告しなければなりません。(労働安全衛生規則97条第1項)
休業が3日以内の場合は、4半期で報告します。(労働安全衛生規則97条第2項)
いずれにしても死亡または休業が発生した労働災害を労働基準監督署に報告(労働者死傷病報告を提出)しないことは「労災かくし」です。
「労災かくし」は犯罪です。
労災によるケガや病気の診療に健康保険をつかうのことも違法です。
健康保険は労災で使えないことが法律できめられています。
「労災保険をつかうと保険料が上がるから健康保険をつかってくれ」と会社に言われても、健康保険を使わずに労災保険をつかいましょう。
労災申請して労災保険給付をうけましょう。
健康保険法1条(目的)
この法律は、労働者又はその被扶養者の業務災害(労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)第7条第1項第1号に規定する業務災害をいう。)以外の疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。
健康保険法55条(他の法令による保険給付との調整)
被保険者に係る療養の給付又は入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費、療養費、訪問看護療養費、移送費、傷病手当金、埋葬料、家族療養費、家族訪問看護療養費、家族移送費若しくは家族埋葬料の支給は、同一の疾病、負傷又は死亡について、労働者災害補償保険法、国家公務員災害補償法(昭和26年法律第191号。他の法律において準用し、又は例による場合を含む。次項及び第128条第2項において同じ。)又は地方公務員災害補償法(昭和42年法律第121号)若しくは同法に基づく条例の規定によりこれらに相当する給付を受けることができる場合には、行わない。
健康保険で治療をうければ、医療費の3割を本人負担分として支払う必要があります。
労災保険で治療をうければ、診察・治療・処方された薬など、無料でうけられます。
会社が健康保険の自己負担分を払うからといっても、違法ですからやめましょう。
そして、実際には治療や休業が長引くこともあり、会社はいつまでも自己負担分や休業補償をつづけるとはかぎりません。
「労災かくし」は犯罪であり、労災なのに健康保険をつかうことも違法です。
労災での病気やケガには労災保険をつかいます。
【編集後記】
初夏の陽気で外を歩くのも楽しい季節です。
部屋のなかで半袖でいられるので肩がはらず気も楽です。
小倉健二(労働者のための社労士・労働者側の社労士)Office新宿(東京都)
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