管理職だって労働組合に入れる

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労働相談を受けていると、“私は管理職なので労働組合に相談できない”と話す方がいます。
管理職だから労働組合に加入できないことはありません。管理職の方も労働組合に加入できます。

管理職の方でも、日雇い労働者の方でも、労働組合に加入する(入る)ことができます。

日本国憲法第28条

勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。

課長職以上の管理職になると労働組合を脱退する(やめる)から管理職は労働組合に加入できないという話が世間的にあります。

これは会社の中だけで組織される労働組合で組合の規約で労働組合員となることができる社員の範囲(組合員資格)が限定されている場合があるという話です。

労働組合は規約で組合員資格を定めることになりますのである会社の労働組合では規約で課長職以上は非労組員とすると定めてある場合です。特定の会社の社員だけで構成する企業内組合で見られるケースです。

企業内組合だからといって管理職を組合員資格から排除しなければならないわけではなく、組合員資格の範囲はそれぞれの労働組合が自由に決めることができます。

職場の労働組合の加入要件からはずれるなら会社の外部にある労働組合に加入できます。

たとえば、あなたが働いている会社の中にある労働組合では管理職が労働組合員となれないという組合規約があって加入できないという場合でも、会社の外にある個人を単位として加入する合同労組や地域型の労働組合(コミュニティ・ユニオン)などに加入することができます。

もちろん、会社の中にある企業内労働組合でない合同労組に加入した場合でもあなたの会社におけるあなたの労働問題の解決のために団体交渉をはじめとした活動ができます。

憲法組合、法内組合。憲法上の労働組合、労働組合法上の労働組合。

日本国憲法(第28条)で労働者が使用者(会社)と対等な立場で交渉する権利(労働三権)が保障されています。

労働三権
1 労働者が団結する権利 団結権
2 労働者が使用者と交渉する権利 団体交渉権
3 労働者が団体で行動する権利 争議権(団体行動権)

労働組合を結成する(つくる)こと、労働組合に加入する(はいる)こと、そして労働組合で活動することは、法律に定める要件を満たすなどの条件なく労働者であれば自由に行なうことができる憲法上の人権です。

それでは労働組合とは何でしょうか?労働組合法では以下のように定義されています。

労働組合法第2条

この法律で「労働組合」とは、労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体をいう。

ただし、以下に該当する団体は労働組合法による保護は労働組合として受けないとされています。

1 役員、雇入解雇昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある労働者、使用者の労働関係についての計画と方針とに関する機密の事項に接し、そのためにその職務上の義務と責任とが当該労働組合の組合員としての誠意と責任とに直接にて、い、触する監督的地位にある労働者その他使用者の利益を代表する者の参加を許すもの
2 団体の運営のための経費の支出につき使用者の経理上の援助を受けるもの。但し、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、且つ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。
3 共済事業その他福利事業のみを目的とするもの
4 主として政治運動又は社会運動を目的とするもの

使用者の利益を代表する者が加入している労働組合も労働組合です。

組合で問題の解決を目指すかどうかはご本人の問題ですが、管理職であっても労働組合に加入したり、労働組合を作ることができます。組合ですから1人では作れませんが2人集まれば届け出たり登記することもなく組合を作る(結成する)ことができます。

抽象的な「管理職」ではなく、使用者の利益を代表する人が参加できる労働組合は労働組合法による救済を労働組合としては受けられませんよというだけです。

たとえ使用者の利益を代表する人が参加できる労働組合であっても憲法上の人権として保護されます。

労組法は、同法に定める不当労働行為に対する救済手続き等の特別の保護を得られる労働組合について2条で定義しており、使用者の利益を代表する者の参加を許すもの(同法2条但書1号)は、保護を得られないとされている。この趣旨は、使用者の利益を代表する者を参加させることによって、当該労働組合が使用者との関係において自主性を失い、御用組合化することを防止することにある。

使用者の利益を代表する労働者も憲法28条の「勤労者」であるので、団結する権利、団体交渉その他団体行動をする権利は保障されており、それら労働者の加入を許す組合またはそれら労働者のみをもって組織する組合も憲法28条の保護(刑事免責、民事免責、不利益取扱いからの保護)は受けるものと解される。

「使用者の利益を代表する者が加入する労働組合の法適合性」労働紛争の調整事例と解説 中央労働委員会

組合員の範囲は労働組合自体が決めることですが、「使用者の利益を代表する者」が加入する労働組合は、自主性を欠くとして労働委員会における労働組合法上の手続に参加できなかったり、救済を受けられないことがあります。利益代表者とは、「部長」「課長」などの名称にとらわれず、その権限が労働組合員としての誠意と責任に抵触するかどうかで判断されます。

労働組合法上、利益代表者とみなされる場合(労組法第2条但書第1号)
1 「役員」:取締役、監査役、理事、監事など
2 「雇入解雇昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある労働者」:人事権を持つ上級管理者
3 「使用者の労働関係についての計画と方針とに関する機密の事項に接し、そのためにその職務上の義務と責任とが当該労働組合の組合員としての誠意と責任とに直接に抵触する監督的地位にある労働者」:労務・人事部課の管理者など

『労働組合のしおり』 東京都産業労働局

 “どの組合がオススメですか?”という質問には困ってしまう

労働組合について質問を受けたときに“どの組合がオススメですか?”と聞かれることがあります。

思わず唸ってしまいます。労働組合の宣伝でお会いしているわけでもありませんし…。

労働組合に限りませんが、どんな団体・組織であっても個人の尊重を根本に置いている集まりなのかそうでないのかが要(かなめ)かなと思います。

会社よりの御用組合であっても、反権力の先鋭的な組合であっても、労働組合は組織・集団です。

その組合の役員や専従者をする人はどちらを向いていても集団志向(集団好き)な人が集まりやすいと私は実感しています。

“1人の100歩よりも100人の1歩”のようなスローガンを語る団体は要注意だと感じています。

1人で一気に100歩すすめる人はいません(スーパーマンはいません)。
100人がいっせいに横に並んで1歩すすむこともありません(しあったらそれはそれで気持ちが悪いです)。

“1人の100歩よりも100人の1歩”というのは、1人で前に進むな、100人横並びに整列しろ、の精神と変わりないと私は考えています。

実際には、横を向いてもだれも1步ふみだしそうもないけれど、自分1人ででも1歩でてみようというところからしか始まりません。

“みんなで”、“みなさん”、“ご一緒に”という抽象的な言葉が出てくる集まりもどうでしょう。私は苦手です。気持ちがサーッと引いてしまいます。

近代立憲主義の根本は個人主義です。自由で平等で自由な意思を持つ1人ひとりの個人が対等な立場で関わる市民社会が前提です。

しかし近代社会は資本主義社会で市民(資本家)と労働者は平等でもなく対等ではありませんでしたし、現代でも変わっていません。
工場(会社)に対して1人ひとりの個人である労働者は無力でした。

そこで資本家と労働者が実質的に平等で対等の立場で自由に交渉し合意して契約を成立できるように労働組合が個人主義・自由主義が根本である憲法で認められてきたのです。

つまり労働組合の目的は労働者という集まりではなく1人ひとりの労働者の個人・自由を実現することが目的であると考えるべきです(と私は考えます)。

とっかかりとしては読みづらいかもしれませんが、参考になる本は『労働法』第2版(西谷 敏)です。
いわゆる労働法の専門書の本はたくさん出ていますが、他の専門書とはことなり個人の人権の視点から労働組合について述べられています。

Amazon 労働法 第2版 西谷 敏 (著)

それではオススメの組合はどこでしょう?聞かれるたびにウ〜ンと唸ってしまい、なんと答えていいのか。
少し厚い本ですが『労働法』第2版(西谷 敏)を一度読んでみて、労働組合とはどうあるべきかを考えて、それからいつくかの労働組合のオルグに会っていろいろと質問してみてはいかがでしょうか?

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今朝(2020/01/15 AM 7:51)の西新宿。雨がぱらつく中で高層ビルの上の階が雲でけむっていました。

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昨日の1日1新 レモンをしぼって入れると紫色に変わるビール。

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小倉健二(労働者のための社労士・労働者側の社労士)Office新宿(東京都)

小倉健二(おぐらけんじ) 労働者のための社労士・労働者側の社労士 労働相談、労働局・労働委員会でのあっせん代理 労災保険給付・障害年金の相談、請求代理 相談・依頼ともに労働者の方に限らせていただいています。  <直接お会いしての相談は現在受付中止> ・mail・zoomオンライン対面での相談をお受けしています。 1965年生まれ57歳。連れ合い(妻)と子ども2人。  労働者の立場で労働問題に関わって30年。  2005年(平成17年)12月から社会保険労務士(社労士)として活動開始。 2007年(平成19年)4月1日特定社会保険労務士付記。 2011年(平成24年)1月30日行政書士試験合格  
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