【労災】業務災害と持病

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「もともとの病気があるから業務災害(労災)にならない」と言われたという相談がありました。
そんなことはありません。持病があっても労災は労災です。

TS210825023 TP V

「持病があると業務災害(労災)にならない」わけではない

「もともとの病気があるから業務災害(労災)にならない」と言われた。

会社で社長や上司から、こんなことを言われることがあります。

しかし、持病があるからといって業務災害にならないということはありません。

労働者が負傷(ケガ)や疾病(病気)になった事由(事情や理由)が業務上のものであれば、それは業務災害です。

労働者災害補償保険法2条の2

労働者災害補償保険は、第1条の目的を達成するため、業務上の事由、複数事業労働者の2以上の事業の業務を要因とする事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に関して保険給付を行うほか、社会復帰促進等事業を行うことができる。

業務災害は、労災保険法からの給付をうけることができます。

労働者災害補償保険法7条(1項)

この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする。

1号 労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付

持病が悪化して業務災害(労災)と認められるには

業務上の事由(事情や理由)で労働者が疾病に罹患した(病気になった)。

病気になった場合、原因が1つとは限りません。
過重な労働が原因で病気になったという場合でも、本人に素因・基礎疾患があることもあります。

素因とは、遺伝的・体質的に特定の疾病にかかりやすい状態をいいます。
基礎疾患とは、現在の疾病に先行して継続的に存在し、現在の疾病の発症の基礎となる病的状態をいいます。

素因・基礎疾患 『改訂版 わかりやすい業務上疾病の認定』厚生労働省労働基準局労災補償部補償課編P23

もともと素因や基礎疾患があったとしても、発症した病気の原因が業務が相対的に有力であれば、業務上の疾病(病気)と認められます。

業務上の疾病の認定については素因等の問題が関係することがあるが、素因等が発病の原因として競合していること自体は、その疾病の業務起因性を妨げない。

業務(ないし業務上のアクシデント)が競合する原因のうち、相対的に有力な原因として認められる場合には、業務上の疾病として取り扱われる。

なお、業務(ないし業務上のアクシデント)が競合しなくても発病したであろう場合には、業務起因性が認められないことはいうまでもない。

労働法コンメンタール 7訂新版『労働者災害補償保険法』厚生労働省労働基準局労災補償部労災管理課編 P186

持病が悪化して労災と認められた事例(労働保険審査会裁決平成27年労第262号 )

労働基準監督署に労災申請(労災保険給付の請求)をしたところ、署長から不支給決定。

不支給決定に納得できず不服申立てをしました。
審査請求をしましたが、労災保険審査官が棄却。

審査請求の棄却にも納得できず労働保険審査会へ再審査請求をした結果、不支給決定を取り消す裁決がでました。

平成27年労第262号

労働者が脳・心臓疾患の発症の基礎となる血管病変等を有していた場合、この血管病変等が労働を契機として増悪したとしても、それは加齢、一般生活等において生体が受ける通常の要因による血管病変等の形成、進行及び増悪の経過 ( 自然経過 ) によるものであると考えられ、一般に業務起因性はない。

しかし、医学的経験則に照らして、脳・心臓疾患の発症の基礎となる血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ得ることが客観的に認められるような業務による明らかな過重負荷が認められる場合には、その脳・心臓疾患は、業務上疾病として取り扱われるところである。

当審査会としては、請求人の本件疾病は、本件に係る医師らが述べているように、素因を有していることは認めあられるものの、約2か月弱の期間で急激に増悪して発症するに至ったと考えられること、上記ウのとおり、請求人は病状が急激に増悪したと考えられる期間と重なる発症前1か月間において、明らかな業務上の過重負荷を受けた事実があることに鑑み、本件疾病は、請求人が有していた大動脈壁の先天的な脆弱性という脳・心臓疾患の発症の基礎となる血管病変等が、業務による明らかな過重負荷により、自然経過を超えて著しく増悪したものと判断する。

請求人は本件疾病の発症前おおむね1か月間にわたる長期的な業務において、著しい疲労の蔽積をもたらす特に過重な業務に就労していたと認められるから、当審査会は、請求人の本件疾病の発症は、業務による過重な負荷によるものであると判断する。

労働保険審査会裁決平成27年労第262号

「もともと持病があるから業務災害(労災)にならない」わけではありません。

もともと病気やケガあっても、業務によって悪化あるいは発症した場合は、業務災害(労災)です、労災申請しましょう。

【編集後記】

うれしい発表が2つありました。
待っていたiPadAir5。うわさ通り今朝発表されました。あさって予約開始。
マスクを着けたままiPhoneロック解除できるiOS15.4は来週。
どちらも楽しみです。

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小倉健二(労働者のための社労士・労働者側の社労士)Office新宿(東京都)

小倉健二(おぐらけんじ) 労働者のための社労士・労働者側の社労士 労働相談、労働局・労働委員会でのあっせん代理 労災保険給付・障害年金の相談、請求代理 相談・依頼ともに労働者の方に限らせていただいています。  <直接お会いしての相談は現在受付中止> ・mail・zoomオンライン対面での相談をお受けしています。 1965年生まれ57歳。連れ合い(妻)と子ども2人。  労働者の立場で労働問題に関わって30年。  2005年(平成17年)12月から社会保険労務士(社労士)として活動開始。 2007年(平成19年)4月1日特定社会保険労務士付記。 2011年(平成24年)1月30日行政書士試験合格  
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