「労働者」って言葉が嫌い!?

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「労働者」という言い方が嫌い、という方に会うことがあります。
「労働者」という言葉について考えてみます。

Yuseiookawa1971978 TP V
部長に「お前らは労働者じゃなくてビジネスマンだって言われたんだけど」
「オレたちサラリーマンは経営者じゃないんだから、労働者じゃないの?」

「労働者って言葉が嫌い」って?

「『労働者』って言葉が私は嫌いです」という方に会うことがあります。

「私は労働者じゃなくてビジネスマンです」と言った労働者の方もいます・・・。

私にとっては意外なことですが、同業者(社労士)の方から聞くことが少なくありません。

社労士の受験科目となる法律で「労働者」という言葉はいつでも出てきます。

受験勉強中に「労働者」が出てこない日はなかったのではないかと思うのですが。

もちろん、合格後に社労士となったあとの実務で日々関わる法律でもあります。

社労士と「労働者」は切ってもきれないものです。

elaws(E-GOV法令検索)で労働基準法の条文を「労働者」で検索したら、見出しを除いて335箇所見つかりました。

労働基準法が関係ないという社労士はさすがにいないでしょう。

「労働者」という言葉にアレルギーがある方は、「労働組合」「労働者の権利」に不快な反応を示している方が多いというのが実感です。

憲法では「勤労者」ですけれど、労働者のことです

「中小企業の社長のお役に立つ仕事をしています」

というのも1つの素晴らしい仕事だと思いますが、そういう方から

「『労働者』という言葉は『偏っている』(かたよっている)から嫌いだ」

と話を聞くと不思議なことを言うな〜と思います。

職業選択の自由・営業の自由が人権であり、そこから経営権は大切なものである。

労働者の権利・労働条件が大切なのは人権として同じものである。

当たり前のことです。

憲法では「勤労者」ですけれど、勤労者とは「労働者」のことです。

日本国憲法で使用者(会社)と対等な立場で労働条件を決めるために労働3権が人権として保障されています。

  1. 労働者が労働組合を結成する権利(団結権)
  2. 労働者が使用者(会社)と団体交渉する権利(団体交渉権)
  3. 労働者が要求実現のために団体で行動する権利(団体行動権(争議権)

労働条件の決定を労使対等な力関係とする労働3権とは別に、勤労条件(労働条件)について法律で定めることが保障されています。

日本国憲法

27条(1項)すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。

2項 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。

3項 児童は、これを酷使してはならない。

28条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。

「労働者」という言葉が出てくる法律の例

憲法では「勤労者」と表現されている「労働者」。

労働基準法、労働組合法、労働契約法で「労働者」の定義を見てみましょう。

法律名 条項 労働者
労働基準法 9条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
労働組合法 3条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によつて生活する者をいう。
労働契約法 2条 この法律において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。

サラリーマン、社員、パート、アルバイト、派遣。
みんな「労働者」です。「労働者」とは法律上の用語です。

労働者という言葉・言い方が「偏っている」なんてことはありません。

日本国憲法27条28条で保障されている労働者の人権。
労働者を保護する(労働者の人権を保障する)ための法律はいくつもあります。

「労働者」に関して目的としている法律はたくさんありますが、そのなかのいくつかを見てみましょう。

法律名 条項 目的など
労働基準法 1条 (1項)労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。

2項 この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。

労働契約法 1条 この法律は、労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則その他労働契約に関する基本的事項を定めることにより、合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われるようにすることを通じて、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することを目的とする。
労働安全衛生法 1条 この法律は、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)と相まつて、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とする。
雇用保険法 1条 雇用保険は、労働者が失業した場合及び労働者について雇用の継続が困難となる事由が生じた場合に必要な給付を行うほか、労働者が自ら職業に関する教育訓練を受けた場合及び労働者が子を養育するための休業をした場合に必要な給付を行うことにより、労働者の生活及び雇用の安定を図るとともに、求職活動を容易にする等その就職を促進し、あわせて、労働者の職業の安定に資するため、失業の予防、雇用状態の是正及び雇用機会の増大、労働者の能力の開発及び向上その他労働者の福祉の増進を図ることを目的とする。
最低賃金法 1条 この法律は、賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もつて、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
労働者災害補償保険法 1条 労働者災害補償保険は、業務上の事由、事業主が同一人でない二以上の事業に使用される労働者(以下「複数事業労働者」という。)の二以上の事業の業務を要因とする事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、あわせて、業務上の事由、複数事業労働者の二以上の事業の業務を要因とする事由又は通勤により負傷し、又は疾病にかかつた労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図り、もつて労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする。
男女雇用機会均等法 1条 この法律は、法の下の平等を保障する日本国憲法の理念にのつとり雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図るとともに、女性労働者の就業に関して妊娠中及び出産後の健康の確保を図る等の措置を推進することを目的とする。
健康保険法 1条 この法律は、労働者又はその被扶養者の業務災害(労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)第七条第一項第一号に規定する業務災害をいう。)以外の疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。
厚生年金保険法 1条 この法律は、労働者の老齢、障害又は死亡について保険給付を行い、労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。
労働組合法 1条 この法律は、労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進することにより労働者の地位を向上させること、労働者がその労働条件について交渉するために自ら代表者を選出することその他の団体行動を行うために自主的に労働組合を組織し、団結することを擁護すること並びに使用者と労働者との関係を規制する労働協約を締結するための団体交渉をすること及びその手続を助成することを目的とする。

【編集後記】

ビジネスマン、サラリーマン、正社員、契約社員、派遣社員、パート、アルバイト。
呼び方は関係なく、みなさん「労働者」ですよ〜!

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小倉健二(労働者のための社労士・労働者側の社労士)Office新宿(東京都)

小倉健二(おぐらけんじ) 労働者のための社労士・労働者側の社労士 労働相談、労働局・労働委員会でのあっせん代理 労災保険給付・障害年金の相談、請求代理 相談・依頼ともに労働者の方に限らせていただいています。  <直接お会いしての相談は現在受付中止> ・mail・zoomオンライン対面での相談をお受けしています。 1965年生まれ57歳。連れ合い(妻)と子ども2人。  労働者の立場で労働問題に関わって30年。  2005年(平成17年)12月から社会保険労務士(社労士)として活動開始。 2007年(平成19年)4月1日特定社会保険労務士付記。 2011年(平成24年)1月30日行政書士試験合格