「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」労働契約法16条
「客観的に合理的な理由」、「社会通念上相当である」。どういう意味だろう?
Contents
客観的な合理性と社会的な相当性がない解雇は無効
解雇とは、会社から一方的に労働契約を終了することです。
解雇は、労働基準法などの法律で具体的に禁止されている場合があります。
たとえば、
法律名 | 解雇制限 |
---|---|
労働基準法 | 業務上災害のため療養中の期間とその後の30日間の解雇、産前産後の休業期間とその後の30日間の解雇 、労働基準監督署に申告したことを理由とする解雇 |
労働組合法 | 労働組合の組合員であることなどを理由とする解雇 |
男女雇用機会均等法 | 労働者の性別を理由とする解雇、女性労働者が結婚・妊娠・出産・産前産後の休業をしたことなどを理由とする解雇 |
育児・介護休業法 | 労働者が育児・介護休業などを申し出たこと、又は育児・介護休業などをしたことを理由とする解雇 |
それでは、
個別の法律で禁止されていない場合であれば、
会社は好き勝手に労働者を解雇できるのでしょうか?
そんなことはありません。
労働者は働いて受けとった給料で生活しています。
給料を受けとれなくなってしまう解雇は、労働者が生活する・生きていく上で大きなダメージとなります。
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になるとした日本食塩製造事件最高裁判決(最高裁昭和50年4月25日第二小法廷判決)など、解雇無効を争った裁判によって、解雇を大きく制限する判例が積み重なってきました。
判例が積み重なって解雇権濫用は無効であることが法理となり、
現在は労働契約法16条に明文化されています。
労働契約法16条(解雇)
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
このことは
都道府県労働局長あての厚生労働省労働基準局長通知「労働契約法の施行について」でも
最高裁判所判決で確立しているいわゆる解雇権濫用法理を規定し、解雇が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には、権利濫用に該当するものとして無効となることを明らかにしたものである
と書かれています。
少し話がずれますが、
厚生労働省の文書「労働契約法の施行について」では、
解雇が有効か無効かを会社と労働者が争う場合は、
労働者が解雇の無効を証明するよりも圧倒的に会社が解雇の有効であることを証明する義務があることが明らかにしています。
乱暴にいえば、
私にはなにも解雇されるような理由はなかったのにが解雇されたので無効であると労働者が主張したら、
解雇が有効であることを会社が証明できなければ、解雇が無効になるということです。
「解雇権濫用の評価の前提となる事実のうち、圧倒的に多くのものについて使用者側に主張立証責任を負わせている現在の裁判実務を何ら変更することなく最高裁判所判決で確立した解雇権濫用法理を法律上明定したもの」であり、「最高裁判所で確立した解雇権濫用法理とこれに基づく民事裁判実務の通例に則して作成されたものであることを踏まえ、解雇権濫用の評価の前提となる事実のうち圧倒的に多くのものについて使用者側に主張立証責任を負わせている現在の裁判上の実務を変更するものではない」
2012年8月10日(基発0810第2号)都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知
解雇が無効であるとあなたが考えているのでしたら、
解雇は無効なので仕事をさせるように会社に主張します。
それでも会社が仕事をさせなかった場合、
無効な解雇であれば仕事をしていなかった間の給料も受けとれます。
解雇が無効であれば、解雇された労働者は会社員としての地位のままです。
会社で働き続けることができますし、解雇されてから再び働きはじめるまでの間の給料を会社から受けとれます。
不当な解雇をするような会社で再び働きたくないという場合は、解雇されてから払われていなかった給料を受け取って辞職することもできます。
客観的に合理的な理由と、社会通念上の相当性。これを2つとも満たしていない解雇は無効です。
解雇が有効となるのか、無効かを判断する基準となる客観的に合理的な理由と、社会通念上の相当性。
客観的に合理的な理由とは、社会通念上の相当性とは、どんなことをいうのでしょうか?
客観的に合理的な理由がないか、社会通念上の相当性がない。
どちらかが欠けている解雇は無効なのですから、客観的な合理性、社会通念上の相当性のそれぞれの中身を明らかにして理解する必要はありません。
解雇権の濫用として解雇が無効となるか有効になるかの要件(条件)として役立つ程度で、客観的な合理性と社会通念上の相当性について少し知っておきたいところです。
【合理性】解雇の有効性を判断する客観的な合理性とは?
辞書をみると合理とは「道理にかなっていること。論理的に妥当であること。」(大辞泉)とあります。
客観的にみて会社をクビにしても良い道理にかなった理由がある必要があること、という意味になるでしょうか。
抽象的でわかるようなわからないような感じですね。
具体的には以下の内容が解雇の客観的に合理的な理由となります。
普通解雇の「客観的に合理的な理由」 | |
---|---|
1 | 労働者の労務提供の不能 |
2 | 能力不足、成績不良、勤務態度不良、適格性欠如 |
3 | 職場規律違反、職務懈怠 |
4 | 経営上の必要性 |
5 | ユニオンショップ協定 |
「解雇」に関する具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性 確かめよう労働条件 厚生労働省
しかし、たとえば会社が「能力不足」だと主張すれば解雇が有効になるわけわけではありません。
客観的に能力不足といえるのか、教育訓練や部署の異動はしたのか、解雇をしなければならないほどのものなのか、などが検討されます。
能力不足で解雇せざるをえないことを会社側が証明しなければ有効な解雇とはなりません。
たとえば、相対評価で平均水準に満たないから能力不足とすることは認められません
こちらの記事で紹介しました。
【解雇】能力ないからクビ!「内向型」のあなたはどうする?
【相当性】解雇の有効性を判断する社会的な相当性とは?
辞書をみると相当とは「程度がその物事にふさわしいこと」(大辞泉)とあります。
社会や世間の常識から考えて会社をクビにしても仕方ない、という感じの意味でしょうか。
社会通念上の相当性についても、客観的な合理性と同じ抽象的です。
日本語なので読んでまったくわからないわけではないのですが、どういうことなのかハッキリとしません。
社会通念上の相当性とは、
解雇しても仕方ないといえるのか?だと考えると少し意味がわかるのではないでしょうか。
たとえば、以下の内容を検討します。
解雇の社会的相当性(解雇しても仕方ないといえるか) | |
---|---|
1 | 解雇の理由となった労働者の行為が軽く、その理由で解雇するのは過酷すぎないか。 |
2 | 他の労働者のときとバランスがとれているか(均衡を欠く場合は解雇無効) |
3 | 労働者の事情はどうか(反省の態度、過去の勤務態度、処分歴、家族構成や年齢など) |
※ | 社会的相当性の判断に際しては、労働者に有利な事情が広く考慮される。 |
参考 【解雇】解雇の社会的相当性 独立行政法人労働政策研究・研修機構
【編集後記】
客観的な合理性と社会的な相当性の両方を満たしていない解雇は無効です。
解雇無効を会社に主張しても進展しない場合は、厚生労働省・労働局のあっせんを利用して解決することもできます。
労働局によるあっせん。特定社会保険労務士が相談とあっせん手続き代理の依頼を受けています。
あっせんについては特定社会保険労務士へ相談してください。
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小倉健二(労働者のための社労士・労働者側の社労士)Office新宿(東京都)
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