労災申請(労災保険給付の請求)については労働基準監督署に行ないますが、労災保険とは別に労災について労働局にあっせんによる解決を求めることができます。
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労災申請(労災保険給付の請求)は労働基準監督署にする
労災保険は業務を原因として発生したケガや病気が対象になって保険給付が行われます。
労働者のうっかりミス(過失)で労災事故が発生したという場合でも、その労働者は労災保険からの給付を受けられます。
労災保険法7条
労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付
労働基準法75条(療養補償)
(1項)労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。
使用者(会社)側に問題(故意・過失)がなく発生した労災であっても、労災に遭った労働者は労災保険からの給付が受けられます。
損害賠償は不法行為や債務不履行など請求する相手(会社)側に問題がなければ請求できませんが、労災保険は会社に問題がなくても、労働者側の過失であっても保険給付を受けることができます。
労災申請(労災保険の給付)は労災に遭った労働者が、労働基準監督署に行ないます。
自分で労災申請をするのが不安な場合は社会保険労務士に依頼することができます。
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労災保険給付とは別に労働者の安全配慮義務違反で損害賠償を請求できる
労働契約書や就業規則など労働契約にさだめられいなくても、労働契約に付随する当然の義務として、使用者(会社)は労働者への安全配慮義務があります。
労働契約法5条(労働者の安全への配慮)
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
労働契約法5条(労働者の安全配慮義務)にある「生命、身体等の安全」には、心身の健康も含まれます。
労働基準法違反や労働安全衛生法でさだめられている事業主が講ずべき措置を遵守していないことが労働災害の原因と関連していれば安全配慮義務違反として認められるべきです。
しかし労働基準法違反がない、労働安全衛生法(規則、施行令など)に定められた措置・基準を遵守している、法令違反がなければ「必要な配慮」がされていて安全配慮義務違反は認められないのではありません。
「必要な配慮」とは、一律に定まるものではなく、使用者に特定の措置を求めるものではありませんが、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等の具体的な状況に応じて、必要な配慮をすることが求められます。
参考『労働契約法のあらまし』厚生労働省
労災保険給付とは別に労災に関連した損害賠償を労働局にあっせんを求めることができる
労災保険からの給付を受けるには、労災が起きたことについての使用者(会社)に責任がある必要はありません。
会社に落ち度がなくて起きた事故であっても、労働者の不注意で起きた事故であっても、労災保険からの給付を労働者が受けることができます。
会社に落ち度があって起きた労災であれば、労災保険からの給付とは別に会社に対して損害賠償を求めることができます。
労災保険給付と重なる部分は二重に求めることができませんが、労災保険から支給されていない内容については損害賠償を求めることができます。
労災保険給付では満たされない上積み補償を請求したいということもあるでしょう。
会社の安全配慮義務が不十分だったために労災事故が起きたのであれば、慰謝料を請求したいかもしれません。
労災保険からは慰謝料は1円も給付されません。
ですから労災保険給付とは別に慰謝料を求めることができます。
損害賠償を求めるというと、裁判による損害賠償請求が思い浮かぶと思いますが、それ以外にも方法があります。
1つの方法として、厚生労働省の都道府県労働局にあっせんで労災による損害賠償を求めることができます。
労災による損害賠償請求の根拠として、先ほど見た労働契約法5条にある労働者への安全配慮義務違反をあげられます。
労働契約法5条の安全配慮義務違反で労災による損害賠償を求めて労働局のあっせんを求めることができます。
会社に直接話し合いを求めても、話し合いに応じない・話し合いに応じても希望する解決に進まないことが多いでしょう。
そんなときには、労働局によるあっせんに進みましょう。
各都道府県にある厚生労働省の労働局があなたと会社の間に入って話し合いによる解決をめざすことができます。
労働局以外にも、各都道府県の労働委員会によるあっせんも同じように利用できます。
(東京都労働委員会ではあっせんを利用できるのは労働組合だけで、個人は利用できません。)
和解金、解決金など会社側が受け入れやすい名前になるでしょうが、労災保険上積み補償や慰謝料が支払われる解決を求めることができます。
公的機関(厚生労働省)が間に入ることで会社側もあなたの求める内容について話しを聞くようになることが期待できます。
労働法に詳しい専門家があっせん委員になるので、ただ間に入るのではありません。
判例も含めて労働法に詳しい専門家があなたと会社との間に入って話し合いが行われます。
そして、労働法に詳しくなくて心配だという方は、あなたの代理人として特定社会保険労務士にあっせんについて依頼することができます。
「労働者のための社労士」(特定社会保険労務士・小倉健二)は会社側からの依頼は受けず、労働者からの依頼を専門に受けています。
労災をめぐる労働局あっせん事例
あっせん事例(沖縄労働局)
労働災害補償の上積み請求(労働者からの申請)
仕事中に災害に遭い、療養後職場復帰したところ事業主の配慮のない対応により退職を余儀なくされた労働者が、後遣症が残り満足に再就職ができない状況にもあることから、労働災害による補償(労災保険とは別途)を求めてあっせん申請を行いました。
あっせんの結果、事業主が●万円の和解解決金を支払うことで合意に至りました。
あっせん事例(岐阜県労働委員会)
傷害慰謝料、後遺障害慰謝料及び逸失利益、休業補償金の請求
<労働者側の主張>
使用者の安全配慮義務違反により勤務中に負傷したため、治療中の傷害慰謝料、後遺障害慰謝料及び逸失利益を請求する。また、労災休業期間については、当時の収入額に応じた休業補償金を請求する。<使用者側の主張>
請求されている慰謝料及び逸失利益は法外な金額であり応じられず、また、休業期間の補償金については支払い済みである。<あっせん結果>
第1回あっせん時には労使双方の主張に大きな隔たりがあったが、後に使用者側から歩み寄りたい旨の申し出があり、解決金を支払うことを内容としたあっせん案を双方が受諾し解決となった。
【編集後記】
裁判でなく、話し合いによる解決をしたいという労働者の方には都道府県労働局(厚生労働省)による「あっせん」はいかがでしょうか。
小倉健二(労働者のための社労士・労働者側の社労士)Office新宿(東京都)
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