【生活保護と障害年金】どちらを選ぶべきか?

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「生活保護と障害年金のどちらを選んだらいいのか?」
障害年金の相談者の方からときどきうける質問です。

Q.生活保護と障害年金のどちらを選ぶべきか?

「生活保護と障害年金のどちらを選ぶ?」どう考えたら良いでしょうか。

Q.障害年金を請求するか?生活保護を利用するか?迷っています。
障害の状態があり、働くのがむずかしく収入が少なくて困っています。
貯金などの資産もほとんどないので生活するためのお金が不足しています。
障害年金を請求するか、生活保護を利用するか、迷っています。
生活保護と障害年金、どちらを選ぶべきでしょうか?
A.資産が少なく収入が足りずに生活が厳しいのでしたら、生活保護を先に利用してみたらどうでしょう。

障害年金を申請するためには、提出する書類がいくつも必要ですし、準備には手間と時間が必要な場合が少なくありません。

また請求書類を提出してから、審査を受けて支給するか不支給とするか決定が出るまでには数ヶ月かかります。
書類不備や資料の内容に疑問が持たれた場合は、資料の出し直しや追加資料の提出を求められることもあり、この場合は決定までにさらに待つことになります。

審査の結果、障害年金の支給されることになった場合でも、年金支給決定から年金の振込までには1ヶ月以上(50日程度)かかります。

障害年金は請求して必ず支給されるというものではありません。
また障害年金が支給される場合でも、請求手続きのための準備や審査待ち、年金の振り込みまでに半年以上、場合によっては1年以上かかることもあります。

生活保護の利用も申請して必ず保護開始の決定がでるとは限りませんが、申請から原則14日以内に決定がでます。

障害年金の申請は、生活保護を利用して生活が安定してからでも出来ます。
生活保護の申請と障害年金の請求を同時に行なうこともできますが、生活保護を申請し利用開始して生活が安定してからでも、障害年金の請求の準備は遅くはありません。生活保護利用者の方の障害年金の手続きを、ケースワーカー以外の専門の職員が行なってくれる自治体もあります。(この場合には社会保険労務士に依頼する場合とことなり無料で手続きを代理してもらうことができます。)

いま現在、貯金などの資産や給料などの収入での生活に困っているのでしたら、まずは生活保護の利用を申請してみてはいかがでしょうか。

すでに障害年金の請求の手続きが終わり審査の結果を待っている方も、結果が出るのを待たずに生活保護の利用を申請することができます。

障害年金請求の準備を始めてから支給までは日数がかかる。生活保護は申請から14日以内の決定が原則

障害年金を請求するためには、障害の原因となった病気やケガで初めて病院で診療を受けた日、「初診日」を明らかにすることが必要です。

初診日から同じ病院に通院し続けている方は、障害年金請求用の「診断書」で初診日を証明します。

しかし、初診から通院する病院が変わっている方は、初診日を証明する資料「受診状況等証明書」を初診の病院で記入してもらう必要があります。

初診から複数の病院を転院して診療を受けてきた方の中には、初診の病院がどこだったのか?はっきりわからないという方もいます。

初診から長い年月が過ぎて、初診の病院が廃院してなくなってしまっている、カルテが廃棄されてしまっていて受診状況等証明書への記入ができないと断られてしまう方もいます。

いつどこの病院での何科での受診が、障害の原因となる病気やケガの初診になるのか?判断が難しいというケースもあります。

初診日の前日に厚生年金に加入していたかどうかで、障害年金受け取ることができる障害の程度が変わります。

初診日の前日に厚生年金の被保険者であった方は障害年金の障害等級1級2級3級に当てはまる障害の場合に年金が支給されます。

初診日の前日に厚生年金に加入していなかった国民年金の被保険者だった場合は、障害等級1級2級に当てはまる場合に年金が支給されます。

保険料納付要件の判断も初診日の前日の状況で判断されます。
年金の保険料の未納がどの程度あるかで、障害年金を受け取ることができるかどうか判断されます。

年金保険料の納付状況は年金事務所で確認できますが、初診日が確定できないと初診日前日での保険料納付要件を満たしているかどうか判断することができません。

障害年金を受け取ることができる程度の障害の状態にあるかどうかの判断は「障害認定日」に行われます。この障害認定日は原則として初診日から1年6月を経過した日です。

このように、障害年金の請求をするときには「初診日」がいつなのか明らかにすることが重要です。
しかし、初診日の証明が難しいケースは少なくはありません。

この初診日の証明が難しいケースでは、障害年金を請求するための準備のために期間がかかるでしょう。

障害年金を請求するための準備として、いくつか必要な書類を用意する必要があります。

初診日の確定ができないと、障害年金の請求手続きに必要な書類の準備が整いません。

障害年金を請求するために特に重要な書類が3つあります。

  • 初診日を証明する「受診状況等証明書
  • 障害認定日(以後)の障害の状態を証明する障害年金請求用の「診断書
  • 障害の原因となる病気やケガをした発症日から障害認定日(あるいは現在)までの日常生活や仕事の状況を時系列に記入した「病歴・就労状況等申立書

この3つの書類のうち受診状況等証明書と障害年金請求専用の診断書は医師(医療機関)が記入して作成します。
病歴・就労状況等申立書は障害年金請求者本人が作成します。

病歴・就労状況等申立書の作成は依頼をうけた社会保険労務士が聞き取りをして作成することができますし、受診状況等証明書と障害年金請求専用の診断書の医師への作成依頼も社会保険労務士がお手伝いすることができます。

しかし、社会保険労務士が障害年金請求手続きの代理をすれば、本人が行なうよりも、準備から請求手続きまで早く行なうことができたとしても、依頼をうけてすぐに年金が振込まれるわけではありません。

準備〜請求手続き〜審査待ち〜支給決定(または不支給決定)〜(支給決定がでた場合は)年金の初回振込。

障害年金を請求しようと決めてから障害年金が振り込まれるまで、半年程度は少なくても必要だということは知っておいていただければと思います。

生活保護は申請から原則14日以内に、生活保護を利用できるかどうかの回答をすることになっています。

生活保護制度 に関するQ3

「生活保護制度」に関するQ&A 厚生労働省

障害年金と生活保護はどちらかを選択しなければならないものではない

障害年金と生活保護はどちらかを選択しなければならないものではありません。

生活保護を利用している方で、障害年金を申請して支給される方もいます。
住んでいる地域によっては、ケースワーカーとは別に障害年金の申請手続きを代わりに進めてくれる担当者がいる場合もあります。

障害年金の支給を受けている方が、生活保護を申請して利用する方もいます。
障害年金の支給を受けながら、生活保護を利用を始める方もいるのです。

2019年12月に行われた厚生労働省「障害年金受給者実態調査」によると、
障害年金の受給者209万6千人のうち15万8千人の方が生活保護を利用しています。

(単位:千人)

2019年 年金制度基礎調査 障害年金受給者実態調査 令和元年

2019年「年金制度基礎調査(障害年金受給者実態調査)令和元年」 政府統計の総合窓口 e-Stat

この2019年の調査によると、障害年金を受給している方の1割近く(7.5%)の方が、生活保護を利用しています。

障害年金に限らず、1月あたりの収入が生活保護を利用できる金額よりも多くなると生活保護を利用することができなくなりますが、障害年金を受給している方が生活保護を利用できないというものではありません。そして、生活保護を利用している方が障害年金を請求して受給することもできます。

障害年金と生活保護、どちらかを選択しなければならないものではありません。

支給される障害年金の分だけ、生活保護の生活扶助費は少なくなりますが、障害者加算の対象となる方については、加算分が増えて生活保護費が多くなります。

厚生労働省が2022年10月5日に公表した生活保護の非保護者調査の7月分の結果をみると、生活保護を利用している世帯の13%が障害者世帯でした。

生活保護利用1,634,381世帯中、障害者世帯213,619世帯。

被保護者調査 令和4年7月分概数

生活保護には医療費扶助がありますので、無料の医療を受けることができます。
障害年金の支給を受けている方も、利用できる方は生活保護を申請しましょう。

【編集後記】

「生活保護という言葉は知っているけれど、よくわからない」という方も多いと思います。

少しでも知っていれば、自分や知り合いが生活に困っているときに「生活保護を利用してみよう」という選択ができます。

生活保護について身近に感じられる本や漫画もありますので、読んでみてはいかがでしょう。

漫画『健康で文化的な最低限度の生活』(柏木ハルコさん著)11巻では、軽度知的障害があり働くことに困難がある方が生活保護を利用して生活を立て直していく過程が描かれています。自分1人の力だけで生きていくことが自立ではありません。生活保護を含めた福祉を利用し、行政や支援者などの協力をうけて自分らしく自立して生きていける方法を探していきたいですね。

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小倉健二(労働者のための社労士・労働者側の社労士)Office新宿(東京都)

小倉健二(おぐらけんじ) 労働者のための社労士・労働者側の社労士 労働相談、労働局・労働委員会でのあっせん代理 労災保険給付・障害年金の相談、請求代理 相談・依頼ともに労働者の方に限らせていただいています。  <直接お会いしての相談は現在受付中止> ・mail・zoomオンライン対面での相談をお受けしています。 1965年生まれ57歳。連れ合い(妻)と子ども2人。  労働者の立場で労働問題に関わって30年。  2005年(平成17年)12月から社会保険労務士(社労士)として活動開始。 2007年(平成19年)4月1日特定社会保険労務士付記。 2011年(平成24年)1月30日行政書士試験合格  
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